悪性腫瘍及びこれに関連する再建

対象疾患

皮膚悪性腫瘍切除後の再建
乳房再建
四肢軟部組織悪性腫瘍切除後の再建
頭頚部再建、など
 

概要
形成外科を英語でPlastic & Reconstructive Surgery (形成と再建外科)と言います。形成外科では各種悪性腫瘍切除後に欠損した組織(無くなった部分、不足する部分)の再建術(作り直す、整える)を行います。主なものには以下のものが挙げられますが、その他、外科、産婦人科、泌尿器科など関係科は多岐にわたり、各科からのご依頼により、各種再建術をお手伝いしています。
せっかく癌治療により生命が救われても、機能的障害のみならず整容的不自由によりその後の生活や外出に支障があったり、苦痛を伴うようでは本当の癌治療が完了したとは言えません。
がん治療のsurvivorである患者様がその後の人生や生活をより豊かに快適に過ごすための手術が再建術です。


皮膚悪性腫瘍切除後の再建(皮膚科)

 基底細胞癌、扁平上皮癌、Paget病、Bowen病など

乳房再建(外科、乳腺外科)

四肢軟部組織悪性腫瘍切除後の再建(整形外科)

 軟部悪性腫瘍など

頭頚部再建(耳鼻科、歯科口腔外科)

 咽頭癌、喉頭癌、下顎歯肉癌、頬粘膜癌 など


乳房再建(外科、乳腺外科)

乳がんの手術などで失われた乳房を手術により形づくることを乳房再建と言います。乳房再建の目的は整容的なものとなりますが、機能的障害がないからと言って治療をしない、遠慮する類のものではありません。

女性にとって、年齢に関わらず、乳房を失い代わりに大きな傷や大きな凹みができることは大きな精神的苦痛を伴い、体のバランスの異変をも生じうる障害と言えます。昨今、若年層の乳がん罹患率の増加及び乳がんでの5生率の上昇を鑑みると、乳房を失ってからの人生の方が長くなる可能性すらあります。

乳房再建手術は、現在そのほとんどを保険診療(一部のインプラントのみ自由診療)で行うことができます。

乳がん治療中、乳がん治療後も「友人や孫と温泉に行きたい」「前開きの服を着たい」という願いはあって然るべきですし、癌闘病中及び癌治療後の前向きな生活を応援するために形成外科という科はあります。

もちろん、完全に左右対称元通りの乳房を作ることは困難ですが、できるだけそれに近づけるように再建法も様々な方法が開発され、変化しています。


乳腺外科が当院でない患者様も適宜紹介状などお持ちいただき、拝見することが可能です。


「一次再建」「二次再建」、「一期再建」「二期再建」

乳がんの手術時に何か再建に必要な手術をする場合を「一次再建」、乳がんの手術とはまったく別に再建の手術を行う場合を「二次再建」と言います。

また、乳房再建の手術を1回で行う場合を「一期再建」2回に分けて行う場合を「二期再建」と言います。

一次か二次かについては乳腺外科の先生との相談にもよりますが、再発の可能性のある患者様や術後放射線治療が予定されている患者様は二次再建となる場合が多いです。二次再建という方法もあると思ってお過ごしいただければと思います。

以下、具体的な再建方法について記載します。

尚、乳房再建と乳輪乳頭の再建は原則として別途行います。


インプラント(人工物)による再建:再建時間1~2時間、入院1~2週

いわゆる乳房全摘による乳房切除の場合、欠損は乳輪乳頭を含む皮膚、皮下組織、乳腺となります。

最終的にインプラントでの再建をする場合、欠損のうち、ボリュームを補うことはできますが、表面の皮膚を補うことができません。このため、手術の1段階目として水風船であるエキスパンダー(組織拡張器)を挿入し、不足した皮膚を十分拡張する必要があります。これは1次手術で行うことも2次手術で行うことも可能です。

また、異物露出のリスクを避けるため、エキスパンダー及びインプラントは皮膚直下ではなく、大胸筋下に挿入します。

エキスパンダーを挿入した後に2週間ごと程度、外来で針を刺すことにより、生理食塩水をエキスパンダーに注入し徐々に皮膚(大胸筋)を拡張します。

通常皮膚を充分に伸ばし終わってから3か月以上経過したところでインプラントに入れ替える手術(二期手術)を行います。

 利点:乳房切除時にできた傷のみで全ての手術を行うことができます。

    手術が比較的簡便で手術時間、入院期間ともに短く、早期の復帰が可能です。

 欠点:異物であるため、自家組織に比べて感染に弱いです。

    保険収載になったものの種類には限りがあり、完全に左右対称といきづらい可能性があります。

    いわゆる「垂れた」形状の再現には限界があります。

    周りの組織が硬くなり(瘢痕拘縮、被膜拘縮)長い目で見て位置異常がおこる可能性があります。

    血流がないため、冬冷たいなどの違和感を感じることがあります。


自家組織による再建:再建時間5~10時間、入院2~4週

自家組織、つまり患者様自身の体の一部を使って乳房を再建する方法です。

ここで、前提として乳房に移植する組織は血が通っていなければなりません。乳房再建のみならず、形成外科での再建手術で用いられる血流のある(血がかよっている)組織の塊のことを「皮弁」と言います。

また、移植した皮弁の血流の取得方法により有茎皮弁(主な栄養血管を切り離さずにA地点からB地点に移動する方法)と遊離皮弁(主な栄養血管を一度切り離してA地点から遠いB地点に移動し、B地点付近の別の血管に血管吻合をすることにより、血流を確保する方法)に分けられます。

乳房再建に用いられる皮弁の種類は多岐にわたりますが、その中でも一般的で、当院でも行っている2皮弁の方法について以下に説明します。


広背筋皮弁:有茎皮弁 再建時間5~6時間、入院2週程度

広背筋(懸垂をする時などに使用する、左右1つずつある背中の広い筋肉)を用いる方法です。乳房再建で用いる皮弁において、筋肉は血流を確保するために必要ではありますが、将来的に委縮してしまう可能性が高いため、主な容量は皮膚及び皮下組織(皮下脂肪)に依存します。

このため、皮膚の下で広背筋はほぼ全ての範囲で採取しますが、その直上に乗っていて、尚且つ縫縮可能な(つまめる範囲の)皮膚及び皮下組織を一緒に採取します。これらは主に、広背筋の栄養血管である胸背動静脈(脇の下から背中に伸びています。)で栄養され、この血管を軸に同側の背中から胸へ腋の皮下トンネルを通して移動させます。皮弁を採取した背中は単純縫縮しますので、背中に比較的長い傷がつくことになります。

 利点:自家組織なので、質感(柔らかさ、体温)や形(垂れた感じなど)が有利

    古くからあらゆる再建に用いられる皮弁で血流が安定している

 欠点:背中に長い傷がつく

    背部半面の違和感は長い間続く場合が多い

    術後背部に体液が溜まりやすい

    体格、もともとの胸の大きさ、下垂感により再現しづらい、組織不足である可能性がある

    有茎なので、形を整えるのに限界がある


腹直筋皮弁(有茎)、腹直筋穿通枝皮弁(遊離) 手術時間10~12時間 入院2週~4週間

腹直筋(いわゆる腹筋)の片側ないしそのごく一部を利用し、その上層にある腹部の皮膚皮下組織(脂肪)を用いる方法です。広背筋皮弁の項でも書きました通り、乳房再建に必要なボリュームは主に皮膚と皮下組織で補います。尚且つ腹直筋は広背筋と異なり、おなかの壁を担う重要な筋肉で、これがある程度の範囲で欠損すると腹壁ヘルニア(脱腸)になる可能性があります。

この皮弁の栄養血管は主に下腹部にある深下腹壁動静脈ですが、これは腹直筋を胸の方向へ上向し、胸の内胸動静脈へと変わっていきます。


【腹直筋皮弁(有茎)】
上記の栄養支配であるため、内胸動静脈を栄養血管とした有茎皮弁としての「腹直筋皮弁」での再建をすることも可能です。この場合、心窩部(みぞおちのあたり)に皮下トンネルを作成して筋皮弁(皮膚皮下組織とみぞおちで折り返した片側の腹直筋)を腹部から胸部へ移動します。

しかし、腹直筋はどちらかというと深下腹壁動静脈からの栄養が優位であるため有茎ではあるものの、内胸動静脈のみでの栄養の場合、血流が不安定となる可能性があります。これを改善するため、動脈吻合や静脈吻合を付加することもあります。


【腹直筋穿通枝皮弁(深下腹壁動脈穿通枝皮弁)(遊離)】

腹直筋の筋肉をできるだけ犠牲にせず、皮膚や皮下脂肪に到達する血管とその周囲の最低限の筋肉だけを抜き出して、栄養血管である深下腹壁動静脈を一度切断して、再建乳房付近の血管(主に内胸動静脈)に顕微鏡を使って血管吻合をして再建する方法です。

遊離皮弁の場合は術後厳重な血流チェックが必要になります。


 利点:質感の再現が有利、組織量が充分

    ドナー(皮弁採取部)の傷は大きいが下着に隠れる

    広背筋に比べてドナー部の違和感が少ない

 欠点:吻合不全に伴う皮弁の部分壊死、全壊死の可能性がある

    手術時間、入院期間が長い

    腹壁瘢痕ヘルニアの発生する可能性がある(出産予定がる場合は避ける方が無難)


乳頭乳輪形成:1時間、入院数日~10日

乳頭乳輪形成は、原則として乳房再建手術とは別に行い、同様に保険適応となります。様々な方法がありますが、当院では主に

 
 乳頭:健側の乳頭を半分移植 or

    局所皮弁(周囲の皮膚を折りたたんだりすることで形成する)

 乳輪:会陰部から皮膚移植

    
で行います。