脳の病気にならないように、予防できる脳血管障害

脳卒中(脳血管障害)の予防 脳の予防医学は脳ドック

くも膜下出血の予防

くも膜下出血発症者の3分の1は死亡または重度の後遺症を残し、3分の1は自立して社会復帰可能ですが、残る3分の1はやはり後遺症で生活が自立できないと言われております。くも膜下出血のほとんどは、脳動脈瘤の破裂が原因です。破裂しやすさには、大きさ、動脈瘤本体の圧迫による神経症状の有無、動脈瘤が不規則であったり動脈瘤の先に小さいこぶがあるなどの形状、多発性、くも膜下出血の既往、家族歴などが関係すると言われています。脳動脈瘤ができやすいのは、内頚動脈、中大脳動脈、前大脳動脈、脳底動脈などの太い血管の分岐部です。これらの血管は、脳の周りにある3枚の膜、外側から硬膜、くも膜、軟膜のうち、くも膜と軟膜の間のくも膜下腔にあり、ここにできた脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血となります。動脈瘤からの出血は、動脈瘤の周りに出血した血液が固まり動脈瘤の出血部位が周辺の脳に押さえられて止血されますが、反対側や脳の表面のくも膜下腔まで広範に出血が広がって脳圧が上昇すると、脳全体の圧迫と脳血流低下により、重症くも膜下出血となり意識レベルの低下をきたします。くも膜下出血は、重症化する可能性が高い病気で、全体の1/3は死亡または重度の後遺症を残すと言われています。脳動脈瘤破裂の予防として、何かできるでしょうか。

磁場の強い高精度の3テスラMR検査では、少しずつ角度を変えたMRアンギオ画像を左右に並べて立体視することで、脳動脈瘤はほぼ見落されることなく診断されます。脳動脈瘤の確定診断や形状の確認、動脈瘤周囲の血管の走行などをみるためにMRの次に行う検査が3DCTアンギオです。未破裂脳動脈瘤が発見された場合、脳ドック学会では、脳動脈瘤の最初の発見から数か月以内の3DCTアンギオやMRアンギオの再検により、脳動脈瘤の増大がないことの確認を推奨しています。

脳動脈瘤発生のメカニズムが解明されていないため、脳動脈瘤発生の予防はできませんが、脳動脈瘤破裂の予防は重要です。くも膜下出血は1万人にひとりの割合で発症し、未破裂脳動脈瘤の破裂率は年間約1%と言われていますので、100人に一人が未破裂脳動脈瘤をもっているという計算になります。脳動脈瘤の破裂の予防は、未破裂脳動脈瘤がみつかった段階で、できるだけ破裂しないような工夫をすることと、脳動脈瘤クリッピング術または血管内治療による脳動脈瘤塞栓術を受けることです。クリッピング術は、特殊な脳動脈瘤でない限り確立された手術法です。血管内治療のコイル塞栓術は、開頭のいらない低侵襲な治療ですが、新しい治療なので長期予後、根治性についての報告も様々で治療後の経過観察が推奨されています。治療を受けずに経過観察する場合、まず破裂のリスクファクタ-と言われている喫煙をやめて、大量の飲酒を避け、血圧の厳重なコントロールを行い、血糖や高脂血症に注意しなければなりません。それによって、100%破裂を抑えられるわけではありませんが、破裂予防に効果があるとされています。破裂しやすさは、脳動脈瘤の大きさ(5mm以上かどうかなど)、形状(小さなふくらみなどがないかどうかなど)、症候性かどうか(動眼神経麻痺など)、発生部位などが関係すると言われており、我々は、各症例毎に患者さんと患者さんのご家族と治療の適否と診断後の方針について、よく相談するようにしております。

実際に未破裂脳動脈瘤の治療を受けた人の割合が多いのは、大きさが5mmから10mmの間の動脈瘤を持つ人で、破裂リスクと手術リスクのバランスの結果と言えます。

脳梗塞 手術なしで予防

手術せずに内科的治療での脳梗塞の予防は、心房細動などの心原性脳梗塞を除くと、以下の2つが代表的なものと考えられます。(心房細動による心臓血栓による塞栓の予防には、抗凝固薬が必要です)

 

1. MRアンギオや頸動脈エコー検査などで内頚動脈や中大脳動脈などの脳主幹動脈の狭窄や閉塞が認められたものの、狭窄率が50%以下であったり、脳血流SPECT検査での血流低下が軽く手術適応が無い場合には手術はせずに、狭窄悪化の予防して、血行力学的脳梗塞や脳塞栓を予防します。

狭窄の程度が強い場合やTIAや梗塞の既往がある場合は、抗血小板薬が必要であり、動脈硬化の危険因子となる糖尿病・高血圧・脂質異常症などの厳しいコントロールと禁煙・食事療法・運動療法などを併用して、脳血管の狭窄や脳循環予備能が悪化していないか、経過観察してゆきます。

2. 細い脳血管の狭窄や閉塞を原因とするアテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞の予防が必要です。

1と異なる点は、血管の狭窄率や脳循環予備能検査などによる脳梗塞発症の指標となるものが無い事です。そこで、脳梗塞発症と関連があると報告されている頚動脈エコー検査のプラーク(血管壁の内側を形成する内中膜複合体が厚くなり、厚さ1.1mm以上の部分)とMRI白質病変(FLAIR画像でみられる脳室周囲や深部白質の高信号)について、脳内の細い血管が原因の脳梗塞発症例、約300例の解析を行いました。頸動脈プラークとMRI白質病変の平均値をCI(cerebral infarction)ポイントと定義して示しますと、プラークスコア:8.2 mm、プラーク数:5 個、max IMT:2.6 mm、脳室周囲白質病変グレード:1.9、深部白質病変グレード:2.1となりました。このCIポイントを細い血管を原因とする脳梗塞発症の指標として、動脈硬化の危険因子に対する内科的治療など総合的治療を厳しく行って、脳梗塞発症の一次予防を目指していただきたいと思います。

 

脳ドック受診者で脳梗塞未発症者にも、頚動脈プラークやMRI白質病変がCIポイントに達していたりCIポイントを超えた方がいますが、発症者と未発症者との大きな違いは、脳梗塞発症者は、プラークと白質病変の両方が悪いということでした。プラークが示す太い血管の動脈硬化性変化と白質病変が示す細動脈の動脈硬化の両方が脳梗塞発症に相関があり、両方を指標にすることでCIポイントとしての重要性が増すものと考えられます。

治療は、内科的総合治療の結果が予防へとつながりますが、降圧剤にはAngiotensin type 1 receptor blocker (ARB)、脂質異常症にはスタチンやイコサペント酸(EPA)など、抗炎症作用ももつ薬の併用も検討し、結果として採血データや血圧データの正常化を目標といたします。

予防を考える上での検査結果の見方の具体的対策として、脳ドック受診者1517例の解析を行いました。頚動脈エコー検査でプラークがみられない両側正常例850例、片側のみに認めた片側プラーク症例350例、両側に認めた両側プラーク症例317例となりました。そして、収縮期、拡張期血圧、血液検査(空腹時血糖、HbA1c, 総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪)、喫煙歴(過去の喫煙と現在の喫煙)、これらすべての項目の値は、プラークが、正常、片側、両側と増えるにしたがって、正常範囲内でも上昇傾向(HDLは下降傾向)であることがわかりました。このことから、検査値の目標は検査の正常範囲のぎりぎりではなく中央値に近づくことを目標として危険因子の治療を行い、動脈硬化を予防し、脳梗塞を予防してゆきたいと思います。同じ動脈硬化の病気として、最近では合併率が高いとされる、心筋梗塞の予防もめざし、同様に努力することが重要です。

脳梗塞 手術で予防

脳梗塞予防の外科的治療は、内頚動脈狭窄に対する内膜剥離術(または、血管内治療によるステント留置術)と内頚動脈閉塞や中大脳動脈の狭窄・閉塞に対する浅側頭動脈―中大脳動脈吻合術が頻度の高い血行再建術です。

一過性脳虚血発作(TIA)や軽症の脳梗塞の原因が、頚部内頚動脈の狭窄である場合は50%以上の狭窄、症状がない場合でも60%以上の狭窄の場合頸動脈内膜剥離術を行った上で内服治療を継続する方が、内服治療単独に比べて脳梗塞再発率が低いとされております。内膜剥離術とは、全身麻酔下に、内頚動脈の狭窄部位を露出し、狭窄部の中枢側から末梢側にシャントチューブを入れてチューブを介して血液を流して脳への血流を維持し、手術中に脳梗塞にならないようにします。次に、頚動脈の狭窄部を縦に切開して、肥厚した内膜全体を剥がしとり、石灰化を伴った肥厚なども血管壁外側の外膜を損傷しないように慎重に剥離して取り除きます。内膜剥離面の不整な部分もできるだけ剥がしとって滑らかにして、最後に切開した血管壁をナイロン糸により連続縫合いたします。術中にICG(蛍光色素)による血管撮影やドップラー血流計により血流がよく保たれていることを確認し、血栓形成傾向がないことも確認したら閉創し手術を終了します。脳卒中ガイドラインに従い、内膜剥離術を第1選択とし、一側閉塞後の反対側狭窄や、高位狭窄(下顎骨に病変が近く手術が困難な場合)などは、血管内治療にしております。

次に、内頚動脈や中大脳動脈が動脈硬化によりすでに閉塞してしまった場合です。既に閉塞しておりますので、内膜剥離術はできません。また、脳梗塞を既に発症し後遺症が強い場合も予防という目的が小さいので、手術適応はありません。閉塞しても後遺症が全くない場合やあっても軽度の場合は、再発して重度の後遺症を来さないように浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術による血行再建を行う適応を検討いたします。安静時脳血流の低下と脳循環予備能10%以下が手術適応の基準ですが、術前の高次脳機能低下も加味して、患者さんとご家族とよく相談した上で、実際に手術を行うかどうか決定しております。手術は頭皮下の直径2-3mmの浅側頭動脈と脳表の直径約1mmの中大脳動脈の端側吻合を行いますが、こちらの手術も吻合後術中ICG血管撮影やドップラー血流計により吻合後の血流がよいことや早期血栓形成のないことを確認して手術を終了します。

動脈硬化が進行し、太い主幹動脈の狭窄や閉塞となった場合は、脳梗塞発症や再発の予防のために上記のような手術を検討し、積極的に抗血小板薬や、危険因子の高血圧・糖尿病・高脂血症の薬の内服も検討して脳梗塞とならないような最大限の努力が必要です。

脳出血の予防

脳ドックは予防医学として、くも膜下出血、脳梗塞、脳出血などの脳卒中を予防するために重要と考えられるようになってきました。3疾患全体を100としますと、脳梗塞は約75%、くも膜下出血7%、脳出血は18%です。脳動脈瘤の早期発見により動脈瘤破裂によるくも膜下出血を予防し、動脈硬化の進行を抑えて脳梗塞の発症を予防します。では、脳出血はどのように予防するでしょうか。脳出血の発症は、男性は60歳台に、女性は70歳台にピークがあり、全体で8割以上が高血圧性の脳出血です。脳出血患者入院時の平均血圧は約180mmHgであり、脳出血の最大の危険因子は高血圧です。したがって、健康診断などで高血圧と診断され、降圧剤を内服して収縮期血圧を140mmHg以下に保つようにしていれば、高血圧性脳出血は予防できるものと考え、動脈硬化症による脳梗塞や心筋梗塞を予防することにもなるわけです。高血圧性脳出血発症者の半数は、降圧剤内服による治療を受けており、内服していてもコントロールが不良であれば、脳出血を発症してしまいます。

高血圧以外の脳出血の原因は、脳動静脈奇形、海綿状血管腫、静脈性血管腫、アミロイドアンギオパチーなどがあり、発症した場合にはそれぞれ症例毎に、手術の適応や治療を検討する必要があります。脳出血を来す前に発見された場合には、保存的治療を行い、手術の必要性を熟考する必要があります。