皮膚がん診療

皮膚がんは高齢化に伴い、増加の一途をたどっています。
当科では三多摩地区でも皮膚がんの取り扱いは多く、ほとんどの皮膚がんについて、診断から全身検査、治療、経過観察までを一貫として行っています。
平成27年度に当科で治療を行った皮膚がんの件数を示します(表1)

表1 平成27年度悪性腫瘍新患内訳(平成27年4月~平成28年3月)

総数 66
基底細胞癌 21 悪性黒色腫 6
扁平上皮癌 10 隆起性皮膚線維肉腫 3
日光角化症 4 メルケル細胞癌 1
ボーエン病 4 血管肉腫 1
乳房外パジェット病 2 悪性線維性組織球腫 1
脂腺癌 2 悪性リンパ腫 9
汗腺癌 1 白血病皮膚浸潤 1

皮膚がんの診断について

皮膚は、実に多様な組織より成り立っており(表皮細胞、色素細胞、毛嚢、脂腺、汗腺、血管、神経、線維など)、いずれからも皮膚がんが生じてくる可能性があります。また年齢や部位によって生じやすい皮膚がんの特徴もあります。見た目は様々で、大型の腫瘤であたかも悪性を疑わせるものから、一見湿疹や老人性のしみ、いぼ、ホクロとしか見えないもの、皮膚のしこり、治りにくいキズが癌であることもあります。こういった多様性から、皮膚がんの診断は皮膚科専門医でないと難しく、実際、非専門医にて不適切な治療が行われるケースも散見されます。
実際の診断にはダーモスコープという微細構造を観察できる機器を用いたり、皮膚の一部(数mm大)を局所麻酔で切り取って組織検査(部分生検)を行います。また一度で切除できる大きさであれば全体を切除することもあります。なお生検に関しては、一貫して手術もできる総合病院で行う事をお勧めします。

皮膚がんと診断されたら

生検の結果は約1週間で明らかになりますが、特殊染色を行うため、診断に時間を要することもあります。
大半の皮膚がんは手術で治癒させることができるので過度の心配は不要ですが、中には手術よりも放射線治療や薬物治療を行ったほうがよい場合、あるいは組み合わせた方がよい場合もあります。少数ではありますが、転移する可能性のあるものは、リンパ節や内臓転移の有無を調べる画像検査(超音波検査、CT)をまず行います。また大型のものや、深部に広がっている可能性のあるものは、術前に腫瘍の範囲を確認するためにMRIを、さらに転移や他のがんの合併の疑いが高いケースではPET(他院依頼)を行います。

手術について

がんの手術は、がんそのものよりも大きく切り取ることが通常です。切除範囲については、皮膚がんの種類によって異なります。最近は縮小手術の傾向があり、腫瘍の端から2~20mm離して切除し、可能なものはそのまま縫い寄せ、不可能な場合は皮弁形成術や植皮術を行います。当院では大半のものは皮膚科で行いますが、部位や範囲によっては形成外科や整形外科に依頼することもあります。なお麻酔は局所麻酔で行えることがほとんどですが、大型のもの、手術に時間を要するものでは全身麻酔で行います。

手術以外の治療について

前述のように、多くの皮膚がんは手術のみで治癒させることが可能ですが、がんの種類、進行具合によっては薬剤(抗癌剤や免疫療法)、放射線治療を行ったほうがよい場合があります。標準的な抗癌剤は当科でも使用しており、放射線治療も可能です。なお悪性黒色腫の進行例で最近使用されるようになった、免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬に関しては、関連病院である慶應義塾大学病院へ紹介させていただいております。

皮膚がんを心配されている患者さんへ

他の臓器と違い、皮膚は目に見えるため、ちょっとした変化が気になり、もしや皮膚がんではないかと心配される方は少なくないと思います。前述のように皮膚がんの診断は体に負担もかからず、簡単に行うことができます。まずはお近くの皮膚科専門医を受診していただき、必要な際は皮膚がんを扱っている病院を紹介してもらうのがよいかと思います。陰部皮膚や粘膜の発疹なども、皮膚科の範疇の疾患なので、心配なことがあればまず皮膚科でご相談ください。
なお最近は、高齢者の方で身体の調子が悪い、認知症がある等で病院へ来られず、かなり進行してから皮膚がんと診断されるケースが増えています。皮膚がんは進行すると出血や浸出液、疼痛、悪臭を伴うこともあり、すぐ生命に直結する訳ではなくても、生活の質を明らかに低下させます。急速に拡大したり出血を伴うような皮膚病変があるときは、早めに皮膚科受診をお勧めします。
万が一皮膚がんと診断された場合でも、当科では患者さんの状態に合わせた最も適切な治療法を、一緒に考えていく体制をとっております。

皮膚以外のがん治療に対する皮膚科の役割

当院では病院をあげて様々ながんの治療に取り組んでいます。その中で治療に伴い、避けられない皮膚の合併症が生じる場合があります。頻度の多いものでは、薬物療法による薬疹や放射線皮膚炎、最近注目されているEGFR阻害薬による皮膚症状(ざ瘡様発疹、皮膚乾燥、爪囲炎)などが挙げられます。これらに対し、適切な内服、外用治療を行えるよう当院皮膚科では努めています。また他臓器のがんが皮膚に影響を及ぼし、腫瘤や出血、治りにくいキズとなることがあります。そのような場合、患者さんの苦痛を取り除くための外用剤の工夫なども皮膚科で率先して行っています。

当科で扱う頻度の多い皮膚がんについて

基底細胞癌

最も多く見られる皮膚がんで、高齢者の顔面に生じる黒いシミや腫瘍であることが多いです。転移することは稀ですが、放置すると中央に潰瘍や出血が生じ、骨まで浸潤していくこともあります。また目の周りや鼻にできやすいので、手術の際に整容性を要することが多く、皮弁形成術や植皮術を行う事も少なくありません。

有棘細胞癌

つかります。また数十年前の熱傷や放射線後の瘢痕に生じることもあります。後述する老人性角化症が進行すると有棘細胞癌となります。基底細胞癌に比べて、進行速度が速く、転移の可能性もやや高くなりますが、ほとんどは患部の拡大切除のみで治癒させることが可能です。

老人性角化症

有棘細胞癌と同様、高齢者の露出部に生じやすい病変です。がんになる前の前癌病変とされており、がん細胞がまだ表皮に留まっている状態で、進行は遅く、転移することはありません。高齢者の顔面、手の甲、高齢男性の頭部に好発し、赤みを帯びたかさつきやイボのように見えるため、最初は湿疹やイボの治療を行って経過を見ることもあります。こういった治療で改善しないときは生検を行い、診断を確定させます。小さいものは手術や液体窒素で治療を行います。また皮膚がんの中で、唯一塗り薬の治療が可能であり、イミキモドという薬を週3回外用する方法があります。

悪性黒色腫

いわゆるホクロのがんといわれるもので、比較的若い年代から全身のどこにでも生じうる皮膚がんです。色調は通常黒色ですが、ふつうのホクロよりも大型で多彩な色調が混ざり合い、形も対称型ではないことが特徴です。形態は様々でシミのように見えるものから、盛り上がったもの、手足の爪の黒いスジ、稀ではありますが色素をもたない赤い腫瘍として生じることもあります。なお足の裏のホクロ=悪性黒色腫ではと心配される方は多いですが、ほとんどの場合は良性です。ただ日本人では悪性黒色腫の中で足の裏や爪に病変が生じる比率が高いので、大きいサイズ(鉛筆の太さ以上が目安です)のものは、皮膚科専門医を受診し、ダーモスコープ等を用いた診断をお勧めします。他の皮膚がんに比べて転移するリスクが高いので、CT、エコーなどを用いて全身の検査を事前に行い、手術は予想しうる病変の深さに応じて5~20mmの範囲で切除します。また早期のリンパ節転移の検索のため、センチネルリンパ節生検といって、放射性元素や色素を用いたリンパ節の検査を同時に行う事もあります。悪性黒色腫は病変の深さやリンパ節転移の有無によりステージが決定しますので、その進行度に応じて薬物療法(免疫療法、抗がん剤、免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬)を使用することもあります。

乳房外パジェット病

高齢者の陰部に生じやすい赤みを帯びた皮疹で、進行するとびらんや腫瘤を呈します。湿疹やカンジダ症と誤診されやすく、また皮膚科へ受診しにくい部位であるため、かなり拡大した状態で診断されたり、リンパ節転移を来すこともあります。注意すべきことは、乳房外パジェット病では他のがんが同時に見つかることがあるため、外科(直腸病変)、婦人科、泌尿器科などの診察をお勧めしています。なお病変の境界がはっきりしないことも多いため、1-2cm離した広い範囲の切除が必要で、植皮術を同時に行う事も少なくありません。名前の似た乳房パジェット病は、見た目や組織は似ていますが、乳癌の一種で扱いは全く異なります。