膀胱癌の診断と治療について

膀胱がんの生物学的性質

膀胱がんは一般的に膀胱粘膜から生じる悪性腫瘍で、全国の集計では、膀胱がんの年間罹患数は2万6千人(2012年推計、男女比約3:1)、年間死亡者数は7800人(2014年集計)で、生命に深刻な脅威となるがんであることがわかります(国立がん研究センター公表統計より)。日本、欧米では尿路上皮癌という組織型が最も多くみられ、他に扁平上皮癌、腺癌、時にそれらが混在して見られます。膀胱の別の悪性腫瘍として稀な例では肉腫、リンパ腫などもみられる場合があります。組織型の違いにより生物学的性質(放射線療法、化学療法の感受性など)が異なることから、治療前に組織型を調べることは重要です。

膀胱がんの症状と診断

膀胱がんの最も典型的な初期症状は痛みを伴わない血尿(無痛性血尿)です。
血尿を大きく「目で見てわかる血尿」=肉眼的血尿と、「顕微鏡で見てわかるレベルの血尿」=顕微鏡的血尿に分けた場合、肉眼的血尿は多くの場合尿路感染症、尿路結石が原因です。しかし、これらは痛み、頻尿など、別の症状を伴うことも多いので、無痛性血尿はがんの可能性を考えて精密検査を必要とします。一方、膀胱癌がある場合、感染しやすいなどの条件を生じて尿路感染を合併することがあるので、治りにくい膀胱炎などは基礎に病気があるかを調べる必要があります。
 膀胱がんの病期分類などについては国立がん研究センター情報サービスにて公開されています(http://ganjoho.jp/public/cancer/bladder/)。

膀胱がんを放置するとどうなるか?

上記の通り、血尿が典型的な初期症状ですが、病状の進行により様々な問題を起こしていきます。
列挙すると、

がんの直接的な浸潤や、血尿の閉そくによる尿路通過障害(水腎症、尿閉など排尿障害)

貧血、痛み、腎障害など

病的な尿路に生じる二次的感染症(細菌性、真菌感染など)

腎盂腎炎、膀胱炎、前立腺炎など⇒発熱、感染部位の痛み、排尿障害、腎機能障害など。(病状がさらに悪化すると、他の部位に感染が及びます。)

隣接臓器浸潤に伴う症状

消化管浸潤⇒腸閉塞、消化管出血、腹膜炎など(腹痛、嘔吐、排便停止、出血性貧血など)。
婦人科臓器浸潤⇒不正出血、腹痛など

転移による症状

転移部位により多彩な症状が考えられます。


したがって、これらの症状が出る前に診断、治療を進めたいところです。

当院における標準的膀胱がん治療

切除可能な表在性膀胱がんに対して、経尿道的腫瘍切除術が適応となります。この手術には十分な麻酔が必要で、基本的に入院して治療します。当院ではクリニカルパスを導入し、標準的な治療が確実に提供できるように用意しています(クリニカルパス参照)。また、追加治療、再発予防治療として膀胱内注入化学療法、BCG膀胱内注入療法を行っています。
切除不可能な表在性膀胱がんとは、腫瘍が大きい、多い、などで切除しきれない場合や、上皮内癌など、どこを切除したらいいか、内視鏡の観察でわからないものを指します。この場合には先述の膀胱内薬物注入療法を(大概は可及的に内視鏡切除をしたのちに)行うか、膀胱全摘除術など、根治的治療を検討します。

浸潤性膀胱がんの治療

浸潤性膀胱がんに対しては集学的治療が必要です。残念ながら手術以外の治療には根治的な効果に限界があり、手術可能な条件であれば根治的膀胱全摘除術、尿路変更(変向)術が基本となります。その他に放射線治療、化学療法を組み合わせて治療を行います。根治的膀胱全摘除術とは、がんに対して完全に治癒させることを目的とした手術法で、骨盤内のリンパ節郭清、がんを露出させないで正常組織を含めて広範に摘除する方法です。(がんでない場合に行う単純膀胱全摘術とは切除範囲が異なります。)前立腺を含む尿道を併せて摘除する場合もあり、手術の範囲によっては尿路変更術の方法を変えなければなりません。尿路変更術には自然排尿型尿路再建、回腸導管など、いくつかの方法があります。

自然排尿型尿路再建術とは?

日本で最も広く行われている尿路変更術は回腸導管造設術で、半世紀以上にわたる歴史で確立された術式です。同術式は、腹壁に尿を回収する袋をつけて定期的に交換する方法であるため、日常生活の上で大きな支障があります(術式については後述)。この点を克服するために開発された術式が自然排尿型尿路再建術です。同法では、装具をつけずに腸で作った代用膀胱での畜尿、尿道からの自然に近い排尿が可能になり得るため、条件が満たされれば尿路再建の選択肢に入ります。
当院では同術式選択の条件として、
1.  自己管理がある程度可能で自然排尿型を望む。
2.  腎機能が悪くない。
3.  手術に用いる腸に問題がない。
4.  手術侵襲に問題ない。
5.  尿道および尿道括約筋が温存可能
などを考慮しています。

術式の概要と欠点、およびこれらの条件が必要な理由について以下に説明します。

1.自己管理が可能で自然排尿型を望む。

同術式では、小腸の一部(約40 cm)を使ってお腹の中に膀胱の代用のための袋を作製し、尿管、尿道を吻合します。その結果膀胱摘出前とほぼ同じ尿の流れ道を再現することで自然に近い排尿を回復するという術式です(図)。

小腸で新たに作られた新膀胱には、排尿に関わる神経は通じていませんので、当然ながら尿が貯まったことを知覚する神経はなく、自ら収縮する力もありません。つまり「完全な意味の膀胱の代用」にはなりません。しかし、尿をためること(尿の禁制)は通常保たれ、下腹部に「たまった感じ」により意図的にお腹に力を入れることによって排尿が可能となります。尿をためる、いわゆる禁制は尿道括約筋が温存できれば通常は問題ありません。ただし術後しばらくの間(縫合した後が接着し新しくできた代用膀胱が十分使える大きさになるまで)はカテーテル留置、導尿などの操作が必要です。また、尿管、尿道と代用膀胱の吻合の状態、腎機能の状態、代用膀胱の形状、尿道括約筋やそれを支配する神経の状態など様々な要因で、自排尿ができない、または十分でない場合、自己導尿が継続的に必要となる場合があります。逆に括約筋の機能が十分でない時その他に失禁になる場合があります。

2.腎機能が悪くない。

腸管で代用された新しい膀胱では、本来の膀胱と異なり尿の再吸収の問題が生じます。具体的には尿で捨てられるべき酸、電解質(ナトリウム、カリウムなど)、窒素分(尿毒素)などがある程度再吸収されます。腎機能が正常であれば通常問題になりませんが、腎機能が悪いと代用膀胱からの尿の再吸収を十分に代償できなくなります。排尿の頻度を増やして対処しますが、利尿剤他の薬剤でコントロールする範囲を超えたときには持続的に排出する他の方法を適応しなければならなくなる場合も生じます。

3.手術に用いる腸に問題がない。

利用する腸管は、約40 cm程度の長さの回腸です。この腸を袋状に作製した後に、骨盤内の一番下に位置する尿道までつなげなければなりません。したがって使用する腸の部分に制限があるとき(例えば以前の病気や手術で腸に癒着があるなど)尿道への吻合が困難な場合もあります。
食物中のビタミンB12が回腸末端で吸収されます。回腸が新膀胱に用いられる結果、食物からのビタミンB12吸収障害が生じる可能性があり、その際にはビタミンB12の経静脈的投与(注射による補充)が定期的に必要になる可能性があります。もとの小腸に吸収障害のある場合などには、回腸の利用が短い場合でもビタミンB12吸収障害が顕在化する可能性があります。同様に回腸末端での胆汁酸の再吸収障害により、胆石症の発症リスクが上がります。

4.手術侵襲に問題ない。

手術侵襲の問題は、使用する腸の長さ、複雑な手術操作に伴う手術時間、手術後の合併症に関連します。図のように縫合、吻合などの手技が、回腸導管に比べれば長く複雑な分、合併症のリスクが高くなります。よって心臓、肺の病気その他で麻酔時間、手術時間に制限を必要とする場合は適当ではありません。

5.尿道および尿道括約筋が温存可能

これまでの膀胱手術では、膀胱を尿道と共に摘出する膀胱尿道全摘除術が一般的でした。その理由は、膀胱癌が残存する尿道に再発する可能性があるからです。特に前立腺に癌病変があった場合、残した尿道の再発は、頻度が高いと言われています。ただし、病変の状態によってかなり再発頻度は異なります。ある報告では、前立腺病変のうち、尿道の粘膜のみに癌があった場合は再発がなかったのに対し、前立腺腺管内に癌のあった場合は 25%、前立腺実質まで浸潤があった場合は64% の頻度で尿道再発があったこという結果でした(Hardeman ら1990)。
 一方、自然排尿型として術後に尿道を使用する形で再建した後の尿道再発は、これまでの手術後の報告よりも低く0.5 から5 % 程度の頻度です。(ただし、この場合、尿道再発の危険が高いと判断された場合には、尿道を残す手術を受けてないと思われます。)
もし尿道再発が生じた場合、再度尿路変向術が必要となることもあります。また尿道の再発癌の治療も致命的となる可能性があります。一般的には前立腺内に病変がある場合には、転移を起こしやすく、(尿道再発の有無にかかわらず)膀胱癌自体の治療成績が悪いと考えられています。少しでも再発リスクを少なくする観点も併せ、前立腺に病変がある場合には、当院では尿道を温存する術式をお勧めしていません。

回腸導管

左右の尿管断端と、遊離した15-20 cm程度の回腸を吻合し、回腸の一方の断端は閉鎖、他方を腹壁から貫いて体外へ導き出して皮膚と吻合します。尿は絶えず流れ出てくるため腹壁に袋を装着して尿を回収します。腎から体外までの長さを十分に長くとれるため感染しにくいこと、尿管が腸管と吻合されるため狭窄を起こしにくいこと、(導管の腸が柔らかく、圧の緩衝機構として働くため)常に腎(盂)に低圧が維持できることが利点としてあげられます。腎機能が十分でない場合には選択しやすい術式といえます。体表から尿の管理ができるため、寝たきりの方の介助などではおむつ交換や導尿の代わりに装具交換をすることになります。(せん妄など、体表につけた装具をはずしてしまう場合には状況は深刻ですが)他者が管理する場合には有利かもしれません。

尿管皮膚ろう (当院ではほとんど行っていません。)

膀胱を摘出する手術の後には、結果として左右の尿管が腹腔内に中途で切離されます。この尿管の断端を直接腹壁に引き出して皮膚と縫合する方法です。開口部が状況により二カ所になるため、尿を回収する袋を2つ装着することが必要です。ただし左右の尿管を近いところに開口できれば袋は一つですむ場合もあります。術式が単純であり、消化管を使用しない分手術時間が短いという利点があり、緊急手術などで適応されますが、腎から開口部が短く腎の上行性感染を生じやすく、皮膚との吻合部の狭窄を起こしやすいという欠点があります。長期的に見るとこれらの欠点により腎機能の障害をきたす可能性が高くなります。

他の各術式との比較表を示します。

術式手術時間使う腸管腎機能への影響尿路感染症排尿方法
尿管皮膚ろう 短い なし 感染により低下しやすい
尿管狭窄を起こしやすい
多い 体外に装着する袋で回収
回腸導管 標準 回腸 少ない 少ない 体外に装着する袋で回収
自然排尿型 長い 回腸 尿再吸収を起こり得る やや少ない 自然排尿(状況により自己導尿)

回腸導管ストーマ、尿管皮膚ろうストーマを造設されると、身体障害者4級に相当する公的扶助が受けられます(市役所へのご自身、またはご家族の申請が必要です)。